うちの近所にある北条地区唯一の高校、愛媛県立北条高校。
最近は、ラグビー部や吹奏楽部が全国大会に出場して頑張っていますが、野球部は中級レベルの平凡な野球部でした。もちろん甲子園出場も、愛媛大会で上位に進出したこともありません。
この北条高校野球部、昨年1月に部内の上下関係のトラブルが不祥事という形になり、関わった生徒に処分が下りました。野球部は期限未定の対外試合禁止に。不祥事に関わっていた主力の選手数人は退学。 残された子供たちは一ヶ月間、反省の意味も含めて練習を一切せずに校内の清掃を黙々と続けました。
「このまま試合できずに僕らの高校生活は終わってしまうんやろうか?」
部室ではそんな不安な会話が交わされていたそうです。
昨年の今頃3月初旬に「対外試合禁止は6月25日まで」という正式な処分が高野連から伝えられます。最後の大会に出られる!という喜びもありましたが、大会直前まで一切練習試合は出来ないという不安の方が大きかったそう。
そして3月下旬、春休み、チーム内に突然うわさが流れます。
「あの松山商業の、澤田監督がうちに来るらしいよ、、、」
松山商を全国制覇に導いた名将澤田監督。 昨春、澤田監督は奥様と一緒に松山市内から北条に引っ越してこられました。
北条高校野球部監督就任から2ヶ月が経った頃、近所の居酒屋さんで一杯やりながらお話をさせていただく機会がありました。
初めて部員と顔を合わせた監督就任挨拶の時の話。
「正直に、僕のことを怖いと思ってるヤツは手挙げてみい?」と言うと、恐る恐る全員が手を挙げたらしい。「僕は鬼じゃない、みんなと同じ人間じゃあ(笑)」と。
「松山商(甲子園通算成績 全国6位)時代には、あと何が足りないのか、、、と自問しながら子供と歩んできましたが、北条高校では、な〜んてことない、松商では当たり前のことも出来ないことだらけ。なあんも出来ない(笑)。な〜んだ(笑)と気持ちが楽になった。これからの課題が多い方がやりがいがある!あと、才能を持った子がようけおるのに、もったいない学校だと思った」と監督。
「絶対にこの子供たちに夢をなくさせたくない」と、強い思いを持って就任した澤田監督がまず最初に取り組んだのは基礎練習。
「体の軸をしっかり意識しろ!力よりもバランスが大切!」細かい指導が入る。打撃練習では前には打たずに逆方向にわざとファウルを打つ練習。守備ではキャッチボールばかり。
3週間ほどの基礎練習が続くと打球の質も威力もかわってきた。
「自分が成長しているのが分かった」と、4番の梅原くん。
それまでのユニフォームも一新しました。北条高校の学校のイメージカラーはエンジ色ですが、松山商と同じなのであえて避けたそう。
澤田監督いわく、「松山商時代対戦したチームで一番嫌だったのが、紺色のアンダーシャツで縦じまのユニフォームの学校(今治北や明徳義塾)が戦いにくかったから、じゃあ縦じまに紺でいこか!ということになったんです」とのこと(NYヤンキースに似たユニフォーム)。
九回ちゃんと戦えた練習試合は結局1試合だけで、いよいよ夏の愛媛大会が開幕。
初戦の対戦相手は、格上の私立松山城南高校。
しかし、試合に飢えていた北条高校は一回の表の攻撃から勢いがありました。連打でいきなり3点を先制!
一回の裏、澤田監督が二ヶ月前に急遽投手にコンバートさせたエース高市くんがマウンドに上がります。力みから1点を失いましたが、ベンチに戻った時、「もっと楽に投げろ」と澤田監督から声をかけられ、落ち着きを取り戻し、七回まで相手打線を5安打に抑え、北条高校は4-1で今年初の公式戦を白星で飾りました。
「選手たちは悔しい思いをしながらもよく基礎練習についてきました。地味な練習をコツコツ続けてきた結果です」。試合後澤田監督は選手たちを学校に帰ってねぎらったそう。(朝日新聞愛媛版記事を参照)
北条高校野球部は確実に何かが今までとはかわってきている。試合を観て僕はそう感じました。古豪松山商業の血が北条高校に流れ出し、これで本当の意味で松山と北条(旧北条市)の市町村合併がなった、と高校野球ファンの僕はうれしく思いました。そして、不祥事で学校を辞めた元チームメイトたちがバックネット裏から笑顔で声を出して応援をしてくれてたことが何よりもの救いでした。
昨年は優勝候補ナンバーワン、第一シードの今治西高校が、無名の県立川之石高校に4-2で敗れ、初戦で姿を消す大波乱がありましたが、うまいけど勝てないチームと、うまくないけど負けないチームの差、勝ちと負けの差は何なんだろう?と。決して野球の神様のさじ加減だけではないと思うのです。 これは野球だけの話ではなく我々の生活と照らし合わせてもいい話だと思います。
いよいよ来週から春の高校野球愛媛県地区予選が開幕。新生北条高校の初戦は3月23日(水)松山マドンナスタジアムの第3試合、松山南と伊予農の勝者と対戦。澤田監督の下、昨年から着実に力を付けている北条高校ナインに応援宜しくお願いします。(風早社中メンバーの息子さんも活躍中!)
そしていつか、こんな小さな町の公立高校が「甲子園出場」なんて夢みたいなことが、いや「全国制覇」なんてことがあるかも知れないから世の中面白いんです。
それと、今年の愛媛、優勝候補ナンバーワンと言われている新田高校の強力打線の四番を打つ細川くんも我々風早社中のメンバーの息子さんです(北条北中学出身)。昨年の大会からホームランを量産している、バッティングセンスの良い全国から注目されている選手です。細川くんへの声援も宜しくお願いします。